## 第5話 夜ご飯は何にする?
時計を見ると18時30分。
そろそろ夕飯にはちょうどいい時間だ。
「何が食べたい?」
そう聞くと、彼女は少し考え込む。
「ん〜……。」
「迷うなぁ。」
「お店を見ながら決めてもいい?」
「もちろん。」
「じゃ、行こっか!」
◇
駅前を二人でゆっくり歩く。
飲食店が立ち並び、どこからか美味しそうな匂いが漂ってくる。
「ラーメンもいいなぁ。」
「お寿司も食べたいし……。」
「お肉も捨てがたいなぁ。」
目の前のお店を眺めながら、彼女は楽しそうに悩んでいる。
食欲旺盛だな。
でも。
こうやって特に食べたいものが決まっていない時って、一番難しい。
しばらく歩いていると、彼女がこちらを向いた。
「〇〇君は何が食べたい?」
「俺も迷うな。」
そう答えると、彼女は少し考えてから笑顔になった。
「だったらさ。」
「居酒屋にしようか。」
「お酒も飲めるし、好きでしょ?」
思わず笑ってしまう。
「それいいな。」
迷った時は居酒屋。
なんだかんだで色々食べられるし、一番無難なのかもしれない。
◇
「いらっしゃいませー!」
案内されたのは、どこにでもある居酒屋チェーン。
特別なお店じゃない。
でも、こういう気軽なお店の方が落ち着く。
席に着くと、店員さんが注文を聞きに来る。
「とりあえず生二つで。」
彼女も迷わず頷いた。
「お願いします!」
何度見ても、このギャップは意外なんだよな。
見た目だけなら、カシスオレンジとかピーチ系のカクテルを飲みそうなのに。
まぁ、完全に俺の偏見だけど。
しばらくしてジョッキが運ばれてくる。
「お待たせしました、生ビールです。」
彼女は嬉しそうにジョッキを持ち上げた。
「かんぱーい!」
ジョッキ同士が軽くぶつかる。
一口。
そして。
「ぷはぁ〜!」
「お酒は美味しい!」
「ビールは心を潤してくれる!」

幸せそうな顔で笑う。
本当に好きなんだな。
思わず笑ってしまう。
料理も次々に運ばれてくる。
焼き鳥。
刺身盛り。
天ぷら。
枝豆。
どれも定番の居酒屋メニューだ。
その光景を見ていると、彼女のギャップに改めて気付かされる。
可愛らしい見た目。
ふんわりした雰囲気。
なのに注文するものは完全に酒飲み。
そんなところも、彼女らしい。
「……。」
俺が黙って見つめていると、彼女が首を傾げた。
「じーっと見てどうしたの?」
「もしかして違うお店がよかった?」
「いや。」
「いい飲みっぷりだなって思って。」
その瞬間。
彼女は少しだけ頬を膨らませた。
「お酒好きなんだから、いいじゃん。」
少し拗ねたような言い方。
でも、その表情もどこか可愛らしい。
そのタイミングで店員さんが料理を運んできた。
「酢もつと浅漬けきゅうり、お待たせしました。」
彼女は一瞬で表情を変える。
「きたー!」
「今日は絶対これ頼むって決めてたんだ。」
さっきまでの膨れ顔はどこへ行ったのか。
目を輝かせながら箸を伸ばす。
「居酒屋って、色んなものを少しずつ食べられるからいいよね。」
「たくさんは食べられないけど、色々食べたい人には最高なんだ。」
酢もつを一口。
浅漬けきゅうりを一口。
そして。
ビールをごくごくと飲み干した。
ジョッキが空になる。
「すみませーん!」
「おかわり!」
店員さんも慣れた様子で笑顔を返す。
「かしこまりました!」
今日も、本当にいい飲みっぷりだ。
◇
数時間後。
「ふぅ〜。」
「飲んだ〜。」
「食べた〜。」
彼女は満足そうに椅子へ寄りかかった。
「もう飲めない〜。」
「飲みすぎた?」
そう聞くと、彼女は首を横に振る。
「飲みすぎてはないよ?」
「ちゃんと記憶あるし。」
「歩けるし。」
「ただ……。」
「ちょっとテンション高いかも。」
そう言って照れ笑いする。
いつもより少しだけ楽しそうな笑顔。
その姿を見ていると、こちらまで嬉しくなってしまう。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか。」
彼女はゆっくり立ち上がる。
「うん。」
「家まで送るよ。」
「ありがとう。」
「じゃ、行こっか。」
◇
電車に揺られる。
窓の外には夜景が流れていく。
向かい合って座る彼女が、小さく呟いた。
「楽しい時間って、あっという間だね。」
「そうだね。」
少し沈黙が流れる。
そして。
「明日から仕事かぁ……。」
思わず笑う。
「嫌なこと思い出させるなよ。」
「ふふっ。」
「嫌でも考えちゃうよね。」
「まぁね。」
二人で苦笑する。
そんな他愛もない会話をしているうちに、30分はあっという間だった。
「終点です。」
車内アナウンスが流れる。
◇
彼女の家の前。
「送ってくれてありがとう。」
「どういたしまして。」
彼女は玄関の前で立ち止まり、こちらを見つめる。
「帰ったら電話してね。」
「気を付けて帰るんだよ?」
「あぁ。」
そう答えると、彼女は安心したように笑った。
「じゃあ、おやすみ〜!」
手を振りながら家へ入っていく。
玄関の扉が閉まる直前まで、彼女はこちらを見送ってくれていた。
◇
家へ帰る。
今日は本当に楽しかった。
時計を見る。
23:00。
「……明日も仕事か。」
現実へ引き戻される。
それでも。
今日という一日は、きっと明日も頑張れる力をくれた。
スマホを見る。
彼女との約束を思い出す。


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