## 第3話 映画デート
「じゃあ、今日はこれを見よう。」
俺が指差したのは、映画館の目立つ場所に飾られているポスターだった。
『愛と恋』
最近、テレビやSNSでもよく見かける話題の恋愛映画だ。
正直に言えば、俺はそれほど興味があるわけではない。
それでも、この映画を選んだ理由は一つ。
彼女が前から見たがっていたことを覚えていたからだ。
「えっ、本当に?」
彼女はポスターと俺の顔を交互に見る。
「話題の映画だよね! 私、見たかったんだ。」
目を輝かせる彼女を見て、思わず笑みがこぼれる。
以前の会話を覚えておいてよかった。
「恋愛映画っていいよね。」
チケット売り場へ向かいながら、彼女は楽しそうに話し始める。
「二人が少しずつ惹かれ合っていくところも好きだし、すれ違ってしまう場面も切なくて好き。」
「最後にちゃんと想いが伝わったときは、自分のことみたいに嬉しくなるの。」
映画はまだ始まっていないのに、彼女はすでに楽しそうだ。
「でも、男の子って恋愛映画に興味がない人も多いよね。」
少し心配そうに、こちらを見上げる。
「俺はそんなことないよ。」
そう答えると、彼女はほっとしたように微笑んだ。
「よかった。」
「一緒に見られて嬉しい。」
その表情を見られただけでも、この映画を選んだ意味はあった気がした。
◇
上映開始。
館内の照明が落ち、スクリーンに物語が映し出される。
幼い頃から一緒に育った男女。
互いを大切に思いながらも、それが愛なのか恋なのか分からない。
やがて二人はすれ違い、別々の道を歩み始める。
タイトルのとおり、愛と恋の違いを問い続けるような物語だった。
「あなたを愛している。でも、恋をしているのかは分からない。」
そんな台詞が何度も交わされる。
俺には、少しありきたりな展開に見えた。
この後に誤解が生まれて、最後には気持ちが通じるんだろう。
だいたい先も読める。
正直、少し暇だな……。
そう思いながら、ふと隣へ目を向けた。
彼女はスクリーンをじっと見つめている。
その青い瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。

主人公たちがすれ違うたびに、悲しそうに眉を下げる。
二人の想いが少しずつ重なっていくと、今度は安心したように微笑む。
彼女にとっては、心に深く刺さる物語だったらしい。
映画の内容よりも、彼女の表情の方が気になってしまう。
それでも、楽しみにしていた作品をこうして一緒に見られたのなら、それで十分だ。
この映画を選んでよかった。
心からそう思った。
◇
上映終了。
劇場の照明がゆっくりと明るくなる。
彼女は目元を指先でそっと拭いながら、こちらを向いた。
「最後はハッピーエンドでよかったね。」
「そうだね。」
「途中はどうなるかと思ったけど、ちゃんと気持ちが伝わってよかった。」
安心したように息を吐いた後、彼女は少し恥ずかしそうに笑う。
「私、こういう映画が好きなんだけど……。」
「涙腺が緩いのか、すぐ泣いちゃうんだよね。」
「隣で泣いてたの、気付いた?」
「少しだけ。」
そう答えると、彼女はますます恥ずかしそうに頬を赤くした。
「やっぱり見られてたんだ……。」
楽しんでくれたようでよかった。
「俺も恋愛映画はたまに見るけど、『愛と恋』はほかの作品より面白かったよ。」
彼女の表情がぱっと明るくなる。
「本当?」
「よかった。また一緒に映画を見に来ようね。」
「次も私が見たい映画を選んでいい?」
すでに次の約束を考えている彼女を見て、自然と笑みがこぼれた。
「もちろん。」
◇
映画館を出る。
時計を見る。
16:00。
夕食の約束までは、まだ少し時間がある。
「この後どうする?」
彼女が期待するような表情でこちらを見る。


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